雪国 vol.55
少年が指差した先にあるものを見て、一瞬目を疑った。枯れる寸前の花の周りを飛んでいるのは、ハチドリ? いや、ハチドリは日本にはいないはずだし、そもそもこれほど小さくはない。でも、飛びながら空中に静止し、花の蜜を吸うその動きは、世界一小さい鳥、ハチドリにそっくりだ。
夢中でシャッターを切る私に、虫好きの少年が「興奮してるね」とあきれている。そうなんです。新種発見かもしれないとちょっとだけ思ったものですから。
でも答えはネットですぐにわかってしまった。オオスカシバ。そういえば数年前の夏、クチナシの葉を全部食べてしまったのは、オオスカシバの幼虫だった。あの青虫がこんな美しい蛾になるなんて、知らなかった。
間もなくやってくる厳しい季節に、雪に備える小さな生き物に愛しさを感じる、晩秋のワクワクした出来事。